東京地方裁判所 昭和40年(ワ)1006号 判決 1966年2月24日
原告 京浜信用組合
理由
一、本件物件がもと訴外会社の所有であつたことは、当事者間に争がない。
二、《証拠》をあわせれば、原告は昭和三八年一二月三〇日訴外会社に対する貸金二二八万五、〇〇〇円の担保のため、訴外会社から本件物件外二点の機械を譲渡担保として譲り受けその所有権を取得するとともに、即日占有改定によりその引渡を受けたことが認められる。
三、しかるに被告は、その後杉山仁治において本件物件を即時取得したと主張するところ、《証拠》をあわせれば、訴外杉山仁治は昭和三九年四月二一日訴外会社の代表者である滝上岩男との間で、杉山の滝上に対する貸金一〇〇万円の担保のため、本件物件を譲渡担保として譲り受ける旨契約し、同日滝上から占有改定によりその引渡を受けたことが認められ、その後杉山が同年七月七日に滝上より本件物件の現実の引渡を受けたことは当事者間に争がない。
しかし、《証拠》によれば、本件物件の存在したところは東京都大田区東六郷一丁目二〇番地凸版紙器工業株式会社工場内で、訴外会社は同工場の一部を借りて本件物件を使用して営業に従事していたものであり、物件の占有は訴外会社自体にあり、またその入口には訴外会社の表示が出ており、杉山自身もかねて訴外会社と取引があつてこれに出入し、その会社の表示にも気付いていたことが明らかであつて、本件物件はもと訴外会社の所有であつたものであるから、たとえ杉山においてこれが原告に譲渡担保に供されていることを認識しなかつたとしても、依然として訴外会社の所有にあるものと誤認したというのであればまたこれを首肯し得ないではないが、そうではなくて会社代表者たる滝上個人の所有だと信ずるということはなにらかしかく信ずるに足る特段の事情があればかくべつ、かかる事情のみるべきもののない本件においてははなはだ軽卒というべく、ひつきようかかる誤認はその過失によるものというほかはない。しかも当初の杉山の占有取得は占有改定によるものであつて、その後同年七月七日に現実に引渡を受けたのであるけれども、《証拠》をあわせれば、右引渡は訴外会社が同年七月はじめ手形の不渡を出して支払を停止した直後杉山自らトラツクで訴外会社工場に乗込み、本件物件を実力で運び去ろうとしたため紛争を生じ、その解決のために杉山、滝上および両人の各顧問弁護士との間において話合いがなされ、その過程において滝上または同人の顧問弁護士から、本件物件はすでに原告に対し訴外会社の債務のため譲渡担保に供せられたものであることが明らかにされたが、いずれ物件は訴外会社の生産に供与するとの了解のもとに一時杉山において保管する趣旨でその引渡を受けたというにあることが認められるのであつて、(右認定に反する証人杉山の証言は信用せず、乙第四号証によつても右認定をくつがえすに足りない)結局本件物件については杉山においてこれを即時取得するに足る要件を備えたものとは認めることはできない。
四、よつてさらに被告について即時取得が成立したかどうかについて判断する。
被告が昭和三九年七月三〇日に、本件物件を占有していた杉山からこれを代金一四五万円で買い受け、同日その引渡を受けたことは当事者間に争がない。
しかし、《証拠》をあわせれば、被告会社の代表取締役武田は訴外会社の懇請によりこれに資金的な援助をする趣旨で同年七月一〇日訴外会社の代表取締役に就任したものであるところ、杉山との売買にさいしては、右滝上および蔵方らからきいて本件物件はすでに原告に対して譲渡担保に供せられて原告の所有となつているものであることは知つていたが、さきの経緯により現にこれが杉山の手にある以上、杉山に対する滝上の旧債を解決しないでは訴外会社の使用が妨げられるので、右滝上、蔵方らの懇請により訴外会社のためにこれを杉山の手から取り戻して訴外会社に使用させる目的をもつて、物件が杉山の所有であるとすることにはあきたらなかつたが、被告会社としてあえて金一四五万円を出捐して売買名義で杉山からこれを取得したものであることが認められ、右認定に反する被告代表者尋問の結果の一部はたやすくは信用できない。しからば被告の訴外会社に対する援助の意図は諒とするけれども、本件物件の取得にあたつては被告はこれが原告のものであることは承知していたものというべく、被告につき即時取得の要件を充足するに由ないものとせざるを得ない。
五、しかして被告が現に本件物件を占有することは当事者間に争なく、被告があえて原告の所有権を争うことは弁論の全趣旨から明らかであるから、被告との間で本件物件が原告の所有に属することの確認を求めるとともに被告に対しこれが引渡を求める原告の本訴請求は理由がある。
よつてこれを認容……。